ステルスダウンのトリプル改定
今月のトリプル改定、2か月の猶予を持って6月より始まった。その間のシミュレーションでの評判、評価はかなり低い。というより最悪とも。前回の改定で急性期病床を減らす思惑が外れ微増となったので、施設基準・算定要件を厳しくした。また今回は中央社会保険医療協議会(中医協)外しの職員の賃金アップ、処遇改善という使途限定の改定であり、物価上昇が続くなか診療報酬本体の評価は元々微々たるものであった。そこに厳しい施設基準や算定要件が加わり実質はマイナスのところも多いと予想される。病床削減どころか病院も危ういところが出そうである。
そもそもこの国の診療報酬体系は「診療所の診療所による診療所のための」青本である。外国人のドクターに見せると“クレージー”と。小生が中医協委員になる以前は、実質的に委員は診療所団体の日本医師会が独占。こうなったのも当然かも。初診、再診料にも差があるとお伺いし、ド素人の小生は病院が高いと早とちり。逆と判って啞然としたのを思い出す。今で言う同一労働同一賃金からは遥か夢のまた夢。どうして?と尋ねると日本医師会の偉いさんが「貴君たちは入院で稼いで下さい。外来は我々に任せて」と。
「麻放病(まほうびょう)」とは小生の造語、麻酔・放射線・病理などの診療科は開業医が少ししか居らず、病院のリスクマネージャー、ホスピタルドクター、ドクターズドクターとも言うべき方達の評価は欧米に比して雲泥の差であった。これでは日本の医療は進歩しないと頑張った。又、大学病院も発言力がなく手術など低い評価のままだった。やはりどう見ても、医学・医療のトップランナーらしい評価が必要と支払い側や公益委員の方々にも夜討ち朝駆けでお願いした。チーム医療も老齢化が進む診療所は「3ちゃん医療」(失礼)的なところも多く、半年間の中医協議事録を小生が見返しても、臨床工学士やメディカルソーシャルワーカーなど医療安全や病診連携、医療介護連携のキーパンソンは全く議題にすら挙げられていなかった。
そこで小生の中医協第一声は「討ち入りのつもりで赤穂から江戸に参りました邉見です。外科医ではありますが医師の代表ではありません。30種以上の国家資格保持者の働く病院の代表として参りました。今まで陽の当たっていない分野、麻放病、栄養、リハビリ、医療安全(地域連携は言わなかったかも)などにもよろしくお願いいたします。」と。殆どの委員が初めて聞くような顔つきだったのも覚えている。苦労続きの6年間(任期満了、3期以上は汚職の怖れで)の始まりであった。1号支払い側はまた金のかかる奴が出て来たなぁと。2号側はパイの分け前が減るのではと、言葉は悪いが妾の子のような立場であった。その後も病院医療、なかでもチーム医療、コメディカルの評価、医療資源の少ない地域への配慮、手術技術料、救急医療、薬剤師の病棟配置などを進めてきたが“日暮れて道尚遠し”の感が強まる今回の改定である。