コラム 『白ヒゲの言いたい放題』

No.45 第32回国民の健康会議を終えて

去る10月27日、東京都の日本教育会館一ツ橋ホールで『第32回国民の健康会議』が現地参加のみで開催された。以前は銀座ヤマハホールや新橋のヤクルトホールで開催していたが、今回から一ツ橋ホールへと会場を変更。この会議は平成元年に始まり、昨年と一昨年が中止にならなければ平成34年となる今年は第34回となる筈であった。
主催の全国公私病院連盟は8つの病院団体からなる歴史の古い団体であり、診療報酬改定の説明会や病院運営実態分析調査など玄人向けの事業は有名であるが日本医師会などと比べ国民の認知度は低い。そのため、一般の方向けに病院や医療人の本音を聞いていただいたり、病院の多職種によるチーム医療、予防の重要性、医療と介護の連携などをテーマに開催していたものである。
今回のテーマは「コロナでみえた医療の課題〜医・歯・薬・看・介〜」。総合司会は私と同じく32回の会議に皆勤している行天良雄先生。医療評論の嚆矢(こうし)となったNHK医療解説の大御所らしい見事な采配。第1部は5人の演者による講演で司会は特別参与で横浜市立市民病院名誉院長の渡邉古志郎先生。この方もこの会の常連。
まず最初は、群馬県沼田市で慢性期を中心に認知症や障害者など弱者にやさしい地域づくりのリーダー、大誠会内田病院理事長の田中志子先生。車椅子でも入れる温泉や障害者の働くリンゴ園、リハビリやわんぱく広場。地域に仕事を作り多くの人を集めるコミュニティセンターとして街づくりの実践を話された。
2人目は兵庫県看護協会会長の成田康子先生。県内の病院におけるクラスターの状況をアンケート調査。多くの病院がクラスターにより職員が休み、病棟閉鎖や面会禁止。退院時には家族から「入院したのに悪くなっている」とか自身の生命が危なかったのに「病院はプロなのに何でクラスターが出るのか」など心が折れるトラブルも。離職者も多く、その対策や黙食によって食事でのストレス解消もままならず、等々現場でのご苦労を発表された。
3番バッターは、全国自治体病院協議会薬剤部会長の室井延之先生。ロボットによる調剤や副作用モニタリング、入退院支援、処方提案など神戸市立中央市民病院での先進的な業務をご紹介いただいた。
4人目は大阪府歯科医師会会長の深田拓司先生。クラスターゼロの歯科。日頃からの感染症対策に加えSIRS、MERSの経験により更なる対策の強化。大阪府歯科医師会による夜間救急診療所、歯周ポケットを解説する解りやすいビデオ、吉本興業のミルクボーイによるオーラルフレイルの解説など関西らしい取り組みも。人生百年時代。噛み、嚥み込み、喋る生活を守る歯科の大切さを主張された。
ラストバッターは、元東京大学胸部外科教授で賛育会病院長の本眞一先生のお話。コロナの第1波から7波までの感染者数や重症者数、死亡者の推移。米国では肺を主病巣とする若い重症者340例を肺移植。日本では京都大学の1例のみ。脳死や心臓死でも細胞は生きており、火葬は良くないのではと。もう少し国民に移植を勧めたいとも。そして医療の根本は、患者のために患者との「共生」と。最後には日野原重明氏を彷彿とさせる死生学も教示していただいた。
第2部のシンポジウムは小熊豊副会長(全国自治体病院協議会会長)と園田孝志副会長(全国済生会病院長会会長)の名司会で進行し、会場参加者との意見交換も行われた。その中で、岡山旭東病院総院長土井章弘先生から坂村真民氏の反戦詩を例にウクライナ侵略のような時の医療はどうなるのとの警鐘のコメントが心に残った。全体の自己採点は大甘で90点。

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